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大阪地方裁判所堺支部 昭和46年(ワ)314号 判決

原告 国

訴訟代理人 福田建 外五名

被告 鷹野源司

主文

1  被告は、原告に対し、金九三万二、四七三円および、うち、金八六万七,三二五円については昭和四三年八月一日から、金二万一、八七七円については同年九月八日から、金四万三、二七一円については同月一七日から、それぞれ右支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  この判決は、仮に執行することができる。

事  実 〈省略〉

理由

一、金員の騙取について

1  別表〈省略〉につい七、被告が自ら、原告主張のとおり、郵便局の担当局員を欺罔して、郵便貯金の払戻し名下に各金員を騙取したことは当事者間に争いがない。

2  〈証拠省略〉によれば、別表〈省略〉について、被告が原告主張のとおり金員を騙取したこと、ならびに同表〈省略〉について、原告主張のとおり、被告が、訴外野崎正重と共謀のうえ、同野崎久男および同荒木信男をして、前同様の方法で郵便局の担当職員を欺罔させ、郵便貯金の払戻し名下に各金員を騙取したことが認められる。

二、損害の発生・因果関係について

前記のように、被告は合計金九三万二、四七三円を騙取したのであるから、これによつて原告に同額の損害を与えたといえる。

もつとも、郵便貯金法二六条、同規則五二条によれば、払戻金受領書の印影と通帳の印鑑とを照対して相異がないことを認めたうえで、所定の手続を経て払戻した場合には、原告は正当な払渡しをしたものとみなされる。従つて、原告は、被告に前記金員を騙取されたとはいえ、同条所定の払戻しをした場合には、原告の正当な預金者に対する同額の債務が消滅し、結局原告には何ら損害が生じないことになるのではないかとも考えられる。

しかし、右規定は、原告において、正当な預金者の請求に対して、二重払いを免れるため、債務の消滅をもつて対抗しうる権能を認めたにすぎないもの、換言すれば、右規定による債務消滅の効力は、債務者たる原告と正当な預金者の間でのみ、しかも原告がこれをもつて正当な預金者に対抗した場合にのみ生ずるものと解すべきである。けだし、右規定は、債権者に対する弁済の効力を定めた民法四七八条と同じく、取引の安全のため弁済した債務者を保護するための規定であるが、このような立法趣旨からすれば、右のように解すれば十分で、表見預金者に対する払戻しによる債務消滅の効力を絶対的、確定的なものと解する必要はなく、ましてや払戻しの利益を保有する実質的な権利を何ら有しない表見預金者を保護する必要は全くないからである。

しかして、郵便貯金法二六条、同規則五二条の規定を以上のように解すれば、表見預金者は、右規定を根拠として、債務者たる原告に債務の消滅を主張することはできないこととなる。従つて、仮に原告の被告に対する払戻しが郵便貯金法二六条、同規則五二条所定の手続を経たものであつたとしても、右払戻した金員は原告の損害といえる。

三  結論

以上の次第で、原告は被告に対し、不法行為に基づく損害賠償金として金九三万二、四七三円および遅延損害金として、うち、金八六万七、三二五円については、不法行為の翌日である昭和四三年八月一日から、金二万一、八七七円については同じく同年九月八日から、金四万三、二七一円については同じく同月一七日から、それぞれ右支払ずみまで、民事法定利率年五分の割合による金員の支払いを求めうる権利があるといえる。

よつて、原告の被告に対する本訴請求は、すべて理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 本井巽 中込秀樹 河原和郎)

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